グローバライゼーションの波は、翻訳業界にも押し寄せている。欧米の大企業では、ウェブサイトの制作を一括してやっているところが多い。つまり、例えばイギリスの制作会社がA社のウェブサイト制作を引き受け、英語のオリジナルをもとに各国語バージョンをおっかけ作っていく、というパターンである。私もイギリスのウェブ制作・翻訳会社を通じてある企業のレギュラー翻訳者となっているが、制作会社のコーディネーターは日本語はできない。なので訳文のチェックは、クライアントの東京とNY支社が行っているようだ。ウェブサイト担当部署のみならず、法務部のチェックも入り、サイトの翻訳が進むにつれ用語集ができあがり、翻訳者にもフィードバックされていく、というシステムだ。
というわけで、当然、最初のトライアル/翻訳者選別もクライアントが行う。この企業の場合、日本語のトライアルを受けたのは私が8人目で、それでOKが出たという。「でも」とプロジェクトマネージャーは書いてきた。「日本語は8人で決まってラッキーだったわ。ドイツ語なんて、24人やってもダメだったのよ!」ドイツ支社の担当は、よほどウルサイ人だったと見える。
グローバライゼーションを最も感じるのは、シンガポール、フィリピン、最近では中国から仕事の打診がくる時だ。「1ワードマックス5セントしか払えません。でも日本語に訳してもらえませんか?』など。貨幣価値の違いは理解できるし、地元の日本語ができる人に頼んでも商品になる訳はあがらない事情もわかる。でも日本に住んでいる人に、やっぱそれはないでしょー。だが噂によれば、クオリティを求めない仕事は、コスト削減のため東南アジアに発注することも少なくないそうだ。
それもこれも、インターネットがあったればこそ。翻訳者にも翻訳業界にも、ますます異なるストラテジーが求められていきそうだ。