ドキュメンタリー番組の取材で、ワシントンDC、ナッシュビル、ラスベガスとまわってきた。
 DCのダレス国際空港は「イオンスキャン」とかいうセキュリティシステムを使っており、セキュリティゲートに入ると四方からプシュッと空気が発射される。なんか病院検査っぽくてものものしかった。ワシントンDCはすべてが四角くてグレー。国立なんとかかんとか、米国ふんたらかんたら、と名前のついた、堅牢で重厚な建物がエンエンと続く。
 いかにもお堅いDCで泊まったのが、Tabard Innというホテル。その昔、3世帯の家屋だった建物をホテルに改造したもので、全40室はひと部屋ひと部屋、サイズも装飾もばらばら。1900年前後の調度品が多いという以外は、素人の私からみてもなんだか様式の統一感に欠ける。でもちぐはぐも極めれば、それなりのスタイルになるから面白い。テレビもなければ冷蔵庫もない(ワイヤレスインターネットはある)ので、部屋はしーんとしている。日本から到着したディレクターも、「何なんだこのホテルは、面白いなー」。
 伝統的に左派のインテレクチュアルが集まっていたとのことで、数年前までこのホテルのラウンジは、世界各地から取材にやってきたジャーナリストのたまり場でもあったとか。レストランで朝食をとっていたら、同じくSFから来たというベテランジャーナリストが隣に座って、いろいろ教えてくれた。
 Tabard Innはレストランが有名で、最低でも1週間前に予約しないと入れないそう。価格もリーズナブルなので、次回DCに行ったらぜひ食べてみたい。
 
 テネシー州ナッシュビルは、私の生まれ育った秋田県を思わせるのどかさ。タクシーもホテルもお店も、応対が丁寧でうれしい。取材先までの道中、牛がのんびり草をはむなだらかな風景に癒される。立ち寄った食堂で食べた、サルズベリーステーキの6ドルランチがすごくおいしくて感激。ガソリンもサンフランシスコより1ドル/ガロンも安いんではなかろうか。さらにメノナイト派のお店に連れていってもらい、お買い物。保存のきくおいしそうなホームメイドの食べ物がたくさんあって、目移りする。
 とはいいながら、高級住宅街にはミリンダラーの巨大な屋敷がどんどん新築され、高級ブランド店が並ぶショッピングモールも開店している。ブランド願望のない私は驚愕することしきりだ。一体どんな人が住んでるのか聞いたら、金融関係者やビジネスオーナーとかという返事だった。
 夜、ダウンタウンのホテルに戻り、お風呂にお湯を入れていたら、サンフランシスコから電話が。「史上最大規模のトルネードがナッシュビルダウンタウンを直撃するってニュースで言ってるよ。フロントに電話して避難が必要か聞いた方がいいよ」。うひゃー。廊下でアラームが鳴り、ウェザーチャンネルは見ていたけどあまり気にしていなかったら・・。反省!
 フロントに電話しても誰も出ないので1Fに降りてみると、宿泊客もフロント係もダイニングエリアに集まって、ニュースを見ている。でも緊迫した雰囲気はなくゆるい。窓の外ではぶっとい鉄柱がぶるんぶるん揺れている。ほどなくして台風はニアミスで通り過ぎたのだけど、翌朝のニュース映像を見て「昨夜はほんと危なかったんだ」と実感。エリアごと巨大な掃除機に吸い上げられたような破壊力なのだ。ひえー。アメリカ出張中は、お天気にもっと気をつけなくちゃだ。
 ナッシュビルの搭乗ターミナルにはパブがあって、ミュージシャンがカントリーロックを生演奏していた。んー、いい感じ。ビール飲みたかったけど、我慢して出発。
 
 最終目的地ラスベガスには、夜中に到着。到着エリアにも出発ターミナルにもスロットマシーンがある。数週間前、この空港でミリオンダラー以上を当てた人がいるそうだ(当然飛行機には乗り遅れた)。眠くてぼーっとした頭を、派手派手しいCMが繰り返しながれる巨大スクリーンが出迎えてくれる。「ここってほんとにすべてがover the top。。」と感心するやらあきれるやら。
 ハワイアンシャツを着たタクシーの運転手が「オレはここに30年住んでるけど、よそにゃ住めないね。なんでってfreedomがあるからだよ。ギャンブルだろうが銃だろうが規制がない。自由なんだ」とのたまう。ワイルドウェストである。
 ホテルに到着したのは夜中1:30ごろ。なのにカジノの隣でガガガガ・・と改装工事をしていて、冗談かと思った。ベガスは24時間眠らない街っていうけど、工事の時間すら規制がないのね。・・と、タクシー運転手の言葉が現実味を帯びてくる。
 自由時間があったので、近隣のホテル&カジノを見学してまわる。ホテル内で本物のライオンは飼ってるわ、ピラミッドは建てちゃうわ、ベネチアはあるわ、まぁ要するに「ベガスに来れば世界一周できる」ってのがテーマなんでしょうか。さらに巨大なシティセンターなるプロジェクトが進行中で、著名な建築家5、6人を雇用して、コンドミニアム型ホテルだのなんだのを建築している。
 ベガスはここ数年、成長が著しいとかで、家族で移住してくる人が多いそうだ。ホテルで働いている人を見ても、色んな国の人がいる。メキシコ、中国、サラエボ、などなど・・。あるホテルのベルマンは「難民もたくさん働いている。祖国が敵対している人たちが一緒に働くことになったりすると、うまくやるには時間がかかる。でも何年かするとわだかまりも消えて、仲良くなってるよ」と言っていた。
 メキシコ人のタクシー運転手が「日本に行ってみたいなー。でも貧乏だから行けないなー」と言うので、「この辺の家賃ってどれくらいなの?」と聞くと、「僕んとこは2ベッドルーム、プール付きで950ドルだよ」。・・どこが貧乏なんじゃい!! 
 夜はMGMグランドで「シルク・ド・ソレイユ」のショー「KA」を観た。彼らのショーの中で、舞台装置に最もお金がかかったショーだろう。炎は上がるわ(よその州では規制されそう)、垂直の舞台が回転するわ、ハリウッドのノウハウが詰まった感じだった。でもおかげで彼らの持ち味の身体性が薄まってしまい、私的には今いち。次に来た時は、もっとシンプルなショーを観たい。
 
 ラスベガスからサンフランシスコに戻り、正気を取り戻すというか、普通さにほっとする。
 昨夜出かけたら、フェリービルディングのそばに10〜20代の若者が数千人か集まり、Pillow Fight大会をやっていた。そこらじゅう雪が積もったように、羽根で真っ白になっている。今年で第3回目とのこと。誰が掃除するのかがちょっと気になったが、みんなはしゃいでいた。無邪気である。
 物価を考えるとよその州に移り住もうかしらと思わないこともないけど、しばらくはSFから出張して歩く生活になりそうだ。