日本行きの飛行機で、見逃していた映画『Into the Wild』を観た。
 恵まれた環境で育った青年が、大学卒業後、将来を約束されたコースを捨てて、貯金も寄付してヒッチハイクしながら荒野の世界に入って行く。アラスカで遺体で発見された、クリス・マッカンドレスという青年の実話がもとになっている。
 小さな画面だったにも関わらず、巧みな構成、書物の引用をちりばめた言葉の扱い方、主人公のサバイバルを描く描写の丁寧さ、繊細な音楽(エディ・ベダー)など、ディテールに感激した。
 圧倒的な国の広さを感じさせる自然や都市の描写、物質主義や親の有り様を許せない若さと純粋さ、旅先で知り合うさまざまな’大人’が見せる生き方や価値観、血縁以外の家族や自分の帰る場所を見つける過程、またそうした’大人’の日常に’純粋な主人公’が与えるインパクトなど、究極のアメリカン青春ロードムービーを成す要素がぎっしり。
 小さな独立系映画館で封切られて評判を呼び、続いて大手チェーンの映画館でも公開された、実力のある作品だ。ショーン・ペンは好きな俳優/監督だが、この映画の脚本と編集のすばらしさに、ひいき目なしに見直した。
 
 そして帰りのフライトで、『Into the Wild』の原作を読んだ。この映画の話をしたら、原作を読んでいた友人が文庫になった『荒野へ』をプレゼントしてくれたのだ。
 作者のジョン・クラカワーは、自らも登山家だそうだ。主人公のクリスの生き方と死に対する考察と取材力の幅広さ・深さに、この人でなければ書けなかった本だと感じる。
 
 この本と一緒にフライト中に読んだのが、梅田望夫さんの『ウェブ時代をゆく』だ。その中に出てくる’けもの道’という言葉が、なんだか先の『荒野へ』と、無理やりつなげようと思えばつながるような気がした。
『荒野へ』の主人公、クリスの生き方を見た(読んだ)時に、「日本で社会を拒絶して家にひきこもる人たちの数パーセントは、もしもアメリカに生まれていたら、クリスほど極端なやり方ではないにしても、荒野へ入っていく行動をとるのでは」と感じたせいもある。
 クリスは知的で如才なく、勇気もあった。やがて荒野を後にして、社会の中に自分だけの’けもの道’を開くことができただろう。だが不運なことに、アラスカの荒野の中で亡くなってしまった。
 クラカワーは、息子を医師にしようとした父親の期待に応えられず反抗した自らの生い立ちと、危険な山を上る時の精神状態や感情も描いていて、それがこの本の重要なポイントとなっている。クラカワーが歩いたベストセラー作家への道は、高く険しい見事な‘けもの道’だと思った。

荒野へ (集英社文庫)

荒野へ (集英社文庫)

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)