sasajun2007-06-18

 せっかくこんな天才的な方にお会いできたのに、もったいないことをしちゃったなぁ・・と、つくづく悔やまれた。劇作家の坂手洋二さんを取材させていただいた後のことだ。とても穏やかだけどカリスマティックな方で、えらい緊張してしまったのだ。後になってこんなことも聞いてみたい、あんなことも…と質問が浮かんできた。もー。
 私は演劇はさっぱりわからない。どちらかというと、目の前で役者さんが演じるのがどこか照れくさくて、映画ばかり見てきた。でも、坂手さんの『屋根裏』を読み、舞台をビデオで見て、本当にびっくりしてしまった。演劇って、こんなことができちゃうの!? 
 *『屋根裏』アメリカ公演+ワークショップの記事
 「大きな社会的な問題を小さな舞台の上に引きずり上げて」(後述の沢野さんの言葉)、見る人を楽しませ、考えさせるその手さばきは、私のような演劇オンチでも『屋根裏』のシナリオを読むだけで感じられる。ここ数年読んだフィクションの中でも、飛び抜けて面白かった。
 
 で、きのう坂手さん率いる燐光群の新作「『放埒の人』はなぜ『花嫁の指輪』に改題されたか あるいはなぜ私は引っ越しのさい沢野ひとしの本を見失ったか」を観てきた。台詞の99%が沢野さん自身の言葉で構成されていて、少年時代(50年代)から中年(00年代)までをクロニクルする。燐光群の役者さんはひとりひとりのプレゼンスが強くて、言葉もしっかり心に入ってきたし、飽きなかった。

 沢野さんご自身は「脚本を読み’こんな我がままで、女好きで、身勝手な男がこの世にいるか’とあきれてしまった。坂手洋二は’日本のバブル期を生きた<高等遊民>’と持ち上げているが、劇を見た人は’本当かいな?’と首をかしげるはずだ」とパンフレットに言葉を寄せている。 
 80〜90年代はじめ、私のまわりにも、沢野さんのような<高等遊民>に憧れて、女性を口説きまくり、飲みまくっている男性がちらほらいた。思い返すと、あの人たち、あれだけの量のアルコールを飲みながら、よく仕事をして、生きていたもんだ。売れっ子のコピーライターならコピー1行書いて50万円とか100万円とか、とんでもないお金がぼんぼん流通した。新宿の飲み屋で知り合った女の子とそのままタクシーで伊豆の高級旅館に行っちゃったとか、座っただけで10万円のバーに10人連れてって飲んだとか、そういう話、全然聞かなくなったなぁ。時代も変わったし、私がつきあう人たちも変わった。
 バブルがはじけ、仕事がなくなり、らんちき騒ぎもできなくなってからは、体を患ったり、精神を病んだり、奥さんと子どもに出ていかれちゃったり、最悪のケースでは自殺したり、という噂を聞いた。でも、落っこちるとこまで落っこちて、収入が1/10近くになっても、けろっとして相変わらず焼き鳥屋で飲みながら、元気に働いてる人たちもいる。
 
 人はどの時代に生まれても、その時代を自分の人生に引き受けて、迷いながら生きていく。2007年の現在は、高等遊民というと一部のニートをさすようだ。

坂手洋二 (1) 屋根裏/みみず (ハヤカワ演劇文庫 7)

坂手洋二 (1) 屋根裏/みみず (ハヤカワ演劇文庫 7)