sasajun2007-05-07

 フィンランド人の兄弟と、数週間だけだけど一緒に住んでいる。2人はたいてい英語で話している。フィンランドにいる時も、フィンランド語がわからない人がひとりでもいたら、英語で話すんだそうだ。映画、音楽、食べ物、カルチャー、テクノロジー、政治、経済、歴史、バカ話…。どんな話題も、流暢な英語で冗談をまじえながらいろいろ教えてくれる。日本に遊びに来て10日ほどだが、すでに英語のミステリー小説を3冊読んでしまったといって、本を買いに行った。
 「あなた達ほど英語がうまい人って、フィンランドではどくれくらいいるの?」と聞いたら、「別に珍しくないよ」との返事。
 フィンランドでは、7歳だか9歳だかから外国語の授業が始まるそうだ。数カ国語から好きな言語を2つ選択するのだが、98%の子どもが英語を選ぶとのこと。かといって、大人になってから必ずしも仕事などで英語が必要なわけではない。でも、英語は当たり前に使うものとして、日常に存在しているらしい。英米のテレビ番組がたくさん放映されているので、よく観ているそうだ。
 学校の先生は人気のある職業NO.1で、修士課程を修了し実地訓練を経なければ、教師にはなれないとか、大学まで教育費が無料であるとか、国際的な学力テストでフィンランドの子どもの読解力がNO.1だとか。フィンランドの教育システムがものすごい成果をあげていることは聞きかじって興味を持っていたので、2人に根掘り葉掘り聞いている。
 
 日本では英語など話さなくてもいい仕事に就けるし、特になくても困らない。というのは、日本人の英語がなかなか上達しないと言われる、一番の理由だろう。
 でも、日々の業務がこなせる程度の英会話ができても、それ以上の話題に発展していかないケースが多いのも確かで、それはどうしてなのかと考えると、思考やロジックやコミュニケーション方法における違いが理由として大きいように思える。英語から日本語は理解できても、日本語から英語へ転換する作業でつっかかってしまうのではないか。
 内容にもよるが通訳翻訳をしている時は、「何でもかんでも日本語をそのまま英語に置き換えれば、通じる英語になる」なんてことはなくて、真意を伝えるためには、語彙や文化的背景を説明したり、説明する順番を多少変えたり、誤解を招きそうな表現は避けたり、あるいはジェスチャーを交えたり、などなどの作業が必要になってくる。
 「英語から日本語」にする場合も同じことは言えるのだけど、英語では最低でも主語と動詞がはっきりしていることが多いので、「日本語から英語」よりやりやすい、と翻訳・通訳者さんからよく聞く。丁寧な言い回しと含みの多い日本語の文章の意味を正しく理解して、よい英文にできる翻訳者は、日本中探しても数えるほどしかいないそうだ。
 フィンランド語のロジックがどれほど英語のロジックに近いのかはわからないが、西欧文化圏なのだから日本語より近いだろう。先の兄弟が英語を話す時は、明らかに英語のロジックが機能している。それにフィンランド語がマイノリティ言語のために英語で読まざるを得ない文献が多いのか、英語で身につけた知識量が圧倒的に多い。
 
 で、英語とぜんぜん違う日本語の中で育った日本人はどうしたらいいのか? アメリカで働く優秀な日本人のビジネスパーソンたちに英語の学習法を尋ねたことがあるが、要約すると、「英語での会話力に必要とされる話題と話術を身につけ、磨く努力をする」「発音を軽視せず鍛える」という答えだった。
 ーさまざまな社会階層の人と接して色んなタイプの英語に親しむ。
 ーネイティブがどのような言葉で人を動かしているかを注意して聞いて盗む。
 ー社交の話題を積み上げるため、興味のない映画やスポーツの話題をフォローする。
 ー手持ちのジョークを作っておく。
 ー発音を向上させるクラスをとる。
などなど、各人のやり方で努力されていた。積極的に伝えることや、自分の真意がどれだけ相手に伝わったか、自分の言葉がどれだけ相手に影響を与えたかに、みなさんとても意識的だった。
 
 外国語を学ぶということは、単純に言葉を置き換える訓練を積むということだけではなく、何についていかに話すかということに、母語を話している時以上に意識的になることでもあるなぁと、あらためて思う。