『地球家族』『地球の食卓』などで知られるフォトジャーナリスト、ピーター・メンツェルさんと、パートナーのフェイス・ダルージオさんに会いに、ナパのご自宅を訪ねた。
 住宅が続く地帯に入ると、眼に入る緑の量が圧倒的に多くなる。北カリフォルニアの乾いた空気と、さらっとした風の中で、木々がぎっしりと花をつけている。人工的な建材ではなく、土や緑が人と人を隔てる生活。もしかしたら、これが本来の人間の生き方なのかしら・・・。
 葡萄畑の中、細くうねる道を運転していくと、突然視界が開け、眼下にナパの町が広がる。気持いい〜〜。そのまま登り続けて、鉄のゲートにきた。ボタンを押して入ると、すぐ右に「スタジオM」と離れのような建物があった。「これだ」と車を停めて降りると、馬が3頭、すぐに寄ってくる。目がきれい。なぜなぜしてみる。癒される〜〜。
 しかし、スタジオMは留守の様子。電話してみるとピーターさんが「そこは他の人のスタジオだよ〜。もっと上まで来て」。
 そうして着いたところは、先のスタジオの何倍もの広さの平屋。ピーターさんが家の中を案内してくれる。家自体の作りもしっかりと素晴らしいのだが、それよりも、あたりに満ちているクリエイティビティに心が踊った。好きなものを並べただけの幼稚さや野暮ったさとは、もちろん無縁だ。隅々に手をかけ、世界中から持ち帰った品を一点一点加え、住まいにまつわる問題に合理的かつ美的解決策が講じられてきた。そんな歴史が感じられるのだ。
 「本やジャーナリズムだけじゃなくて、この家もお二人のプロジェクトなんですね」と言ったら、「もう10年、手を入れているのよ。2人で相談して、工夫するのが好きなの」とフェイスさん。
 続いてピーターさんが、地下室に案内してくれた。重い扉を閉め、暗闇に目を慣らしてゴツゴツした石の階段を降りていくと、そこはギャラリーとプロジェクションルームだった。ファンタジー映画に出てくる秘密の部屋そのもの。ここで100人くらいを呼んで上映パーティをしたりするんだそうだ。しばしため息ばかりで言葉が出ない。

 そこらに立てかけてある古い建材を指差しながら、ピーターさんが「このドアは取り壊される家のものを10ドルで買ったんだよ」と笑う。「25年前にこの土地を手に入れて、この家を建てた。以来、ゆっくり改造している。あのころは土地が安かったからね」
 素敵なお二人のことだから、きっと面白いお宅にお住まいだろうと想像していたが、それは私の想像など軽く凌駕するすばらしい場所だった。一年の半分ほどを取材のため海外で過ごすカップルの家には、首のもげたアヒルのぬいぐるみをいつもくわえた犬がいて、庭に置物のようにたたずむネコもいる。家庭菜園に色よい野菜が育ち、プールがナパの陽光に温まっている。留守の間はアシスタントたちが、ここを守り働いているそうだ。世界のあらゆる地を歩き回る2人が「帰ってくるにはいい場所だよ」というその家は、自然とアートとインテレクトと愛がきれいに調和するhomeだった。