渡米が近づき、記事の企画と取材準備に追われている。インタビュー候補の作家、ポー・ブロソンの『シリンコンバレーに行きたいか!(原題:Nudist on the late shift )』を読んだ。Po BronsonはWiredやTimesに寄稿しており、フィクションもノンフィクションも書く。数百人をインタビューして書かれた『このつまらない仕事を辞めたら、僕の人生は変わるのだろうか?(原題:What should I do with my life?)』が、2003年に米国でベストセラーになった。スタッズ・ターケルの『仕事!』のような「普通の人をたくさんインタビューして書かれるジャーナリズム」は、私が心をひかれるジャンルだ。
 ブロンソンは1997年に『シリコンバレーを駆け抜けろ!(原題:The first 20 million is always the hardest)』という小説も書いている。『シリンコンバレーに行きたいか!(原題:Nudist on the late shift )』は1999年の本だ。この2冊、ことに後者は、数あるシリコンバレーものの中でも、そこで働く人々の生態をもっとも活き活きと描いた傑作と言われている。何気ない場面をふっと切り取りながら人物の内面を印象的に浮かび上がらせる筆致は、小説家らしい。著者はドットコムバブルを煽ったことを、後に皮肉もこめてわびたそうだが、19歳でインドから留学生としてやってきて、アップル社に就職後hotmailを創設したサビール・バーティアの「起業家」の章は、どんなに多くの人を興奮させたことだろう。
 「会議室に入っていくと、銀行家と弁護士、それに起業家の見分けがつかない。ハイテクと大型金融取引は、中途半端に接触するのではなく、むしろとことんぶつかり合ってきた。それは文化の衝突(カルチャークラッシュ)ではなく、文化のごた混ぜ(カルチャーマッシュ)なのである」
 「シリコンバレーでは金の印象が薄い。いたるところにころがっているので、誰も驚かないのだ」
とこの本に書いて数年。著者の興味は、シリコンバレー的なことが、他の地域の人々のワークスタイルにいかに影響を与えていくか、というところにもあったようだ。その答えはもしかしたら、ポートランドのようなコミュニティや、あるいは東京のはてなのオフィスのような場所にも、潜んでいるのかもしれない。
 最後に、ブロンソンの本(特に最近の作品)は、シンプルで味わいのある英語が魅力だと思う。英語ができる人は原書を読んでみることをお勧めする。