下品な演説 〜ジュリアーニとペイリン

 先週の共和党大会。最終日のマケインよりも、前夜のジュリアーニとペイリンの演説に注目が集まったようだ。
 
 ジュリアーニもペイリンも、オバマに意地悪だったなぁ。ジュリアーニオバマの経験不足をさして、「job trainingしてる暇はない」(ペイリンのことはすっかり棚に上げてるな)。「経験ゼロ」とObamaのOをひっかけて揶揄するジュリアーニジェスチャーに、聴衆の共和党員が立ち上がり、こぞってゼロマークを作っていた。 
 それから米国のオフショア石油採掘にふれた時、聴衆からわき起こった「Drill, baby drill(掘れ!掘れ!)」というかけ声。採掘の是非はともかく、スポーツ観戦じゃあるまいし、こういうchantってどうなのよ。(共和党員は「USA! USA!」のchantも大好きである。)
 ジェスチャーといい、chantといい、下品すぎ。
 
 オバマは大学卒業後、law schoolに行く前に、community organizerのディレクターとして働いた。(一応説明すると、工場が閉鎖されて困っていた住民のニーズを調べ、議員の理解を得て、行動を起こしてもらう仕事で、数年のうちに7万ドルの予算を40万ドルに拡大し、職業訓練プログラムをスタートさせ、スタッフをひとりから13人に増やした。)
 ジュリアーニはそれを「アイビーリーグを卒業するほどの優秀な男が、コミュニティオーガナイザーか?」と馬鹿にし、ペイリンはその仕事をmayorの仕事に比較して、「community organizerには実質のresponsibilityがない」と揶揄した。
 実際にはこのコメントが、多くの人々の反感を買った。この選挙自体でも、共和党員自身がcommunity organizerを務めたり、彼らの世話になったりしている。しかも二人とも市長時代には、community organizerの功績を見ているはずなのに、どうしてこんなことが言えるんだろう。共和党支持者の中からも「聞いていて恥ずかしかった」という感想が聞かれた。
 
 共和党員は「民主党員はペイリンがスモールタウンの市長だったことを馬鹿にしている」と文句を言う。確かにそうで、どれくらい小さな町かは、アラスカのブロガーのサイトで、ワシラの市役所の写真(画面下方)を見るとわかる。ワシラの人口は7000人とも9000人とも報道されているが、いずれにしても1万人以下(東京ドーム収容人数の1/6以下)で、日本の県立大学の学生数程度だ。アラスカ州全体の人口は70万人に達していない。ジュリアーニは人口827万人のニューヨーク市の市長を7年務めたが、それでも大統領選に出馬した時は「経験不足では」と疑問視された。
 
 ま、それはともかく大事なポイントは、オバマ自身は、ペイリンやマケインを馬鹿にする言葉は発していないということだ。逆に、ペイリンの長女の妊娠出産についてメディアにコメントを求められた時、「子どものことは立ち入るべきではない。no comment」と述べた。ヒラリーと争っていた当初から「Above the Fray(挑発にのらず、超然としている)」と言われてきた態度を崩していない。「政治家のくだらない足の引っ張り合いをなくすことが、ワシントンDCを改革する」と主張してきたからだ。
 もしも反対に、オバマの長女が十代で妊娠となったら、共和党の政治家はどれだけオバマをこきおろすことだろう。
 
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 ところで米国にいてびっくりするのは、演説の力だ。
 ペイリンの演説はおおむね「成功」と評価・報道されていて、中には興奮して「政治の世界にスターが登場した。この人が大統領になるなら投票したい」なんて口走った人もいた。(後日、撤回したが。)オバマ自身も4年前の民主党大会でした演説で人々を魅了し、一気に有名になった人である。
 私が想像するに、有能なスピーチライターとパフォーマーとしての素質に優れた政治家がセットになれば、よい演説はできる。俳優たちが映画の中で、すばらしい演説をして観客の心を打つのと同じだ。ハウスメイトのダイアンに「どうしてアメリカの政治ではこんなにスピーチが大事なの?」と聞いたら、「Because people don't read.」とひとこと返ってきた。彼女は演説はパフォーマンスと割り切って重要視せず、政治家については実績に関する文献を面倒がらずに読んでいる。
 確かに、いい演説は感動的だし、何より聴衆の心をひとつにして、キャンペーンを盛り上げる。でも、たった一度の演説で、ここまで評価が上がったり下がったりするのは、日本人の私にはちょっとピンとこない。
 本当に政治家のスピーチの能力が試されるのは、敏腕ジャーナリストとの一対一のインタビューとか、他のスペシャリストとのディベートとか、タウンミーティングでの対話とか、リハーサルできない場合なんじゃないかなぁ。。。
 
 2008年という歴史的な大統領選の年に、米国にいられるのは面白い。11月にかけて、地元の選挙ボランティアたちのミーティングなどにも顔を出して、市民がいかに選挙を動かしているか、実際に見てみようと思っている。